実体顕微鏡で精密作業ができる理由は、単に大きく見えるからではなかった。左右の眼へ届く異なる像、立体視への慣れ、カメラ映像との違いを、自分が最初に「◎」を作れなかった体験から掘り下げる。
最初は両眼でまともに見られなかった
購入直後、接眼レンズを覗けばすぐに立体的な拡大像が見えると思っていた。実際には、左右に一つずつ円が見えるだけだった。片方だけ見えて片方は真っ黒になることもある。

欲しいのは、二つの円が重なった「◎」の状態だ。しかし眼幅を調整しても、視度を合わせても、左右の像がうまく一つにならない。

高い機材を買ったのに、自分はこれを使えないのではないか。最初は本気で不安になった。
ここで重要なのは、最初から自然に見える人ばかりではないということだ。機材の調整が合っていない可能性もあるし、両眼から入る二つの像を一つとして見る感覚に慣れていない場合もある。
最初から「◎」に見えなくても、故障とも適性なしとも限らないニャ。眼幅と視度を合わせて、短時間ずつ試すニャ。
左右の眼には本当に違う映像が届いている
実体顕微鏡は、同じ一枚の映像を左右の眼へ配っているわけではない。左右それぞれに、わずかに角度の違う像が届く。その視差が立体感を生む。

普段は一つの像として認識しているので、左右の違いを意識することはない。しかし、JIS鏡筒にX-T50を取り付け、左接眼と右接眼から同じ対象を別々に撮れば、その違いを画像として示せるはずだ。
同じパーツでも、左像ではこちら側の面が少し多く見え、右像では反対側が少し多く見える。工具の先端と対象物の前後関係も、左右でわずかに変わる。
平行法で見られるステレオペアを用意した。実際に立体視を試してほしい。

「◎にする」感覚を3Dステレオグラムで練習した
顕微鏡を覗き続けて調整するだけでは、機材が合っていないのか、自分が像を重ねられていないのか分かりづらかった。
そこで、顕微鏡とは別に「○ ○を◎にする」感覚を練習できる3Dステレオグラムを使った。左右に並んだ図形を見ながら、視線を手前または奥へずらし、中央にもう一つ像が現れる状態を探す。
この練習で、一つに重なったときの感覚を先に理解できた。顕微鏡に戻ったときも、どの方向へ調整すればよいか判断しやすくなった。
これは医学的な視機能訓練を説明する章ではない。少なくとも自分の場合は、顕微鏡以外の場所で「左右像が重なる感覚」を確認できたことが助けになった、という体験談だ。

2日目くらいから突然、普通に作業できるようになった
初日は苦労したのに、2日目くらいから突然、普通に像を一つにできるようになった。
現在は、覗く、対象物の高さを合わせる、左右像が重なる、という流れがかなり速い。最初のように「◎を作ろう」と強く意識することもない。
自転車に乗る感覚と同じ、とまで一般化するつもりはない。ただ、一度できるようになると、その後は意識する工程が減った。
だから、最初に立体視できないからといって、そこで実体顕微鏡を諦めなくていい。眼幅や視度などの基本調整を確認し、短時間ずつ試す余地はある。
一方で、見え方や眼の状態には個人差がある。痛みや強い疲労が出るなら無理に続けず、機材の販売店や眼科など適切な相手へ相談した方がよい。
デジタル顕微鏡の2D大画面では代替できなかった
デジタル顕微鏡は、大きな画面へ映し、複数人で確認し、静止画や動画を残す用途に強い。老眼対策としても、対象を大きく表示できる利点は分かりやすい。
しかし精密工作の操作画面として使うと、双眼の実体顕微鏡とは感覚が違った。画面上の像は大きくても、前後関係は一枚の2D映像から判断することになる。工具を手前へ動かしたのか奥へ動かしたのか、先端が対象へ触れる直前なのか、接触後なのかを読む負担がある。
実体顕微鏡では左右の眼へ異なる像が届き、工具、対象物、指先が同じ立体空間の中にある。単なる解像度や画面サイズの差ではない。
デジタル顕微鏡や三眼カメラは記録と共有、双眼接眼は手を動かすためのインターフェースとして使い分けるのが、自分の用途には合っていた。

カメラで撮ると「こんなにピント浅かったっけ?」となった
記事素材を作るため、三眼鏡筒へX-T50を取り付けて撮影した。そこで初めて、接眼中の印象とカメラ映像が大きく違うことに気づいた。
カメラでは被写界深度が非常に浅く見える。対象がZ方向へ少し動くだけでピントが外れ、工具先端かパーツのどちらか一方しか鮮明でない場面も多い。
しかし、双眼接眼では同じ対象を普通に認識し、工具を当てて作業していた。接眼ではすべてが光学的に完全合焦している、という意味ではない。それでも、形状と距離関係を判断するのに必要な情報を得られている。
ここで分けて考えたいのが、光学的な被写界深度と、実際に作業できるZ方向の範囲だ。
数mmの高低差があってもピントを触らず作業できる
段差のある対象へ工具を当てるとき、場所を移すたびに粗動ダイヤルでピントを送り直しているわけではない。数mm程度の高低差があっても、形状、工具先端、対象との位置関係を把握したまま作業できることが多い。
ここを「双眼だから被写界深度が何倍になる」といった単純な数字で説明するつもりはない。すべてが同時にカリカリに合焦しているわけでもない。
主張したいのは、ピントが完全に合っている範囲ではなく、実用上の「作業できる範囲」がカメラ映像から受ける印象より広いことだ。
左手で持つと、カメラでは猛烈に揺れる
左手でパーツを持ち、右手で工具を動かす。接眼ではごく普通に行っていた作業だ。
ところが三眼カメラで撮影すると、左手に持ったパーツが猛烈に揺れている。拡大映像として見ると、記事に使うのをためらうほどだ。
実際に手が揺れていないわけではない。カメラはその動きを正直に記録している。それでも接眼中は、揺れを含んだ対象の位置と工具先端の関係を追いながら作業できている。
カメラは揺れを正直に記録する。それでも接眼中は、揺れる対象と工具先端の関係を追いながら作業できる。静止画や単眼動画だけでは伝わりにくい、双眼接眼の利点の一つだ。
高倍率で知ってしまった「知らない方が幸せだった世界」
高倍率で見えるようになるのは、加工したい部分だけではない。ホコリ、傷、繊維、拭き跡まで容赦なく見える。
除電ブラシをかけ、エアダスターを吹き、無水アルコールで拭いて「完璧に綺麗になった」と思う。それを45倍で見る。
むーん。
高倍率は加工よりも検品、観察、そしてエンタメとして強い。ただし、見えてしまったものをどこまで処理するか、自分なりの終了基準も必要になる。

写真では実体顕微鏡の見え方を完全には伝えられない
メーカーや販売店が「実際に覗くと、写真よりもっと作業できます」と説明しても、購入前なら宣伝文句に見えると思う。自分でも、使う前なら信じにくい。
三眼カメラの静止画や動画は、記録と検品には非常に有用だ。しかし、それは左右の眼で直接見る体験そのものではない。片眼の映像だけでは、実体顕微鏡の価値の一部が抜け落ちる。
片眼の写真は実体顕微鏡の片側だけ。左右の像を脳内で合成して、初めて本領発揮だニャ。
最終的に、実体顕微鏡の見え方を完全に理解するには実機を覗いてもらうしかない。
それでも、最初は「○ ○」しか見えなかった自分が「◎」を作れるようになり、現在はその立体像の中で両手を動かしている。左右像とステレオペアを見比べれば、写真一枚よりは実体顕微鏡の正体へ近づけるはずだ。
実体顕微鏡シリーズ
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チャッピー
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